特別受益の持戻し免除の意思表示の推定について

事例・報告

特別受益の持戻し免除の意思表示の推定について

2022/07/01 事例・報告

 

【事案】のAさんは、Bさんの老後生活の安定を考えて今2人で住んでいる自宅をBさんに贈与した後、しばらくして亡くなりました。

Aさんの相続人はBさんとCさんになりますが、遺産分割するときに、Aさんが生前Bさんに贈与した自宅はどのように扱われるのでしょうか。

 

■ 特別受益の持ち戻しとは? ■

AさんからBさんへの自宅の贈与のような、被相続人の生前贈与や遺贈を『特別受益』といい、遺産分割のときには贈与や遺贈された金額を相続財産の中に計算上加えて、具体的な相続分を決めることになります(民法903条第1項)。このことを『特別受益の持戻し』といいます。

(1)「特別受益の持ち戻し」をする場合

BさんとCさんが法定相続分どおり(それぞれ2分の1ずつ)遺産分割を行うことになると、自宅分の金額を相続財産に加えた上で計算し、すでに自宅を貰っているため自宅分の金額を差し引くことになりますので、Bさんは預貯金500万円をもらうことになります。

【計算】 (20,000,000円+30,000,000)÷220,000,000円=5,000,000

 

(2)「特別受益の持ち戻し」をしない場合

被相続人は、『特別受益の持戻し』をしないという意思表示(これを『持戻し免除の意思表示』といいます。)ができるので(民法903条第3項)、Aさんが自宅の金額を含めずに相続分を決めるといった意思表示をしていれば、Bさんは預貯金から1500万円ももらえることになります。

【計算】 30,000,000円÷215,000,000

 

以上のとおり、Aさんが持戻し免除の意思表示をしていなかったかどうかで、Bさんが使えるお金が1000万円も違ってしまいます。

今回の相続法の改正では、この『特別受益の持戻し免除の意思表示』があったものとする推定規定(民法903条第4項)が定められました。

Aさんのように、夫婦の一方が他方に対して居住用不動産の贈与などをする場合、通常それまでの長年の貢献に報いると共に、その老後の生活を保障する趣旨で行われるものと考えられることなどの事情が考慮され、一定の場合に『特別受益の持戻し』が行われる場合の原則と例外が逆転することになりました。

では、どのような場合に推定規定が適用されるのでしょうか。

 

■ 『特別受益の持ち戻し免除の意思表示』の推定規定が適用されるケース ■

それは、次の2つの要件を満たしたときとなります。

(1)婚姻期間が20年以上の夫婦であること

問題となる贈与や遺贈が行われた時点で、法律上の婚姻期間が20年以上となっている必要があります。

同じ人と結婚と離婚を繰り返している場合には通算で20年以上となっていれば大丈夫ですが、事実婚の期間を含めることはできません。

また、たとえば、贈与が行われたのが婚姻期間10年目だった場合、相続開始時点で婚姻期間が20年以上経過していても要件を充たしません。

(2)居住用不動産の贈与又は遺贈がされたこと

対象となる贈与等の目的物は、自宅といった居住用不動産になります。

贈与などが行われた時点で居住用になっている必要がありますが、近い将来居住用にする目的があったと認められる場合には、要件を充たすと判断される可能性があります。

また、居宅兼店舗の不動産を贈与などした場合、その不動産の構造や形態、被相続人の遺言の趣旨等によって判断されます。

 

推定規定が適用されるかどうかは実質をみて判断されることがあり、一概にこうだと言い切れるものではありません。ご自身の場合に適用されるのか、迷った場合には、弁護士にご相談いただけたらと思います。

 


 

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