事例・報告
遺言能力とは
遺言は,自分の意思に沿って遺産を分けたい,将来,遺産を巡って相続人が揉めるのを避けたい,などの希望を叶えることができるなど,多くのメリットがあります。
もっとも,遺言について,遺言者の死後,その有効性を巡って相続人間で紛争になることがあり,その場合は却って紛争が発生する可能性もあります。
そこで,有効な遺言を作成するためにはどのようにしたら良いでしょうか。
実務上最も多く争われるのは,「遺言能力の有無」です。遺言能力とは,「遺言内容及びその法律効果を理解判断するのに必要な能力」を指します。要するに、遺言の内容を十分に理解できるだけの判断能力のことになります。
典型的には認知症を抱える高齢者の遺言で「遺言能力」が問題になりやすいです。
過去の裁判例では,遺言の内容,遺言者の年齢,病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移,発病時と遺言時の時間的間隔,遺言時とその前後の言動及び健康状態,日頃の遺言についての意向,遺言者の受遺者の関係,前の遺言の有無,前の遺言を変更する動機・事情の有無等遺言者の状況を総合的に見て判断するとされています。
このように様々な考慮要素もあるため,「遺言能力」の有無の判断は専門家でも意見が分かれることも多いです。
その中でも一番重要な要素は,やはり遺言者の判断能力です。そして,その判断能力は,長谷川式スケールやMMSEスケール等の認知症のテストの点数で数値化されます。
非常に大ざっぱに申しますと,長谷川式スケールのテストの結果が
20点以上→有効である可能性大
10点台→ケースバイケース
10点未満→無効である可能性大
という理解がされています。ただし,上記の通り遺言能力の有無は,様々な考慮要素を総合的に考慮して判断されるので,長谷川式スケール等の結果は目安に過ぎず,テストの結果だけで一律に判断することはできません。それでも,実務上はこの点数が非常に重要な考慮要素であることは確かです。
これらの遺言能力の判断基準を踏まえた上,有効な遺言を作成するためには,遺言作成の先立ち,長谷川式スケール等のテストを実施したり,医師の診断書を書いて頂く,遺言内容の聞き取りをする際に動画撮影をするなどの証拠化の作業が重要です。
また,公正証書遺言の方法で作成した方が,公証人のチェックが入るため,自筆証書遺言よりも遺言能力が認められやすいと言えます。
以上のように,遺言能力の観点からも有効かつ,それを証拠化した遺言を作成するためにも,遺言作成の際には予め弁護士に相談しておくことをお勧めします。